【ネタバレ・感想】「この嘘がばれないうちに」 川口俊和著

第10回杉並区演劇祭大賞を受賞し、
売り上げ数50万部を突破するほどのベストセラーになった
書籍「コーヒーが冷めないうちに」の続編が書かれた

【この嘘がばれないうちに】

こちらも10万部を超えるほどのベストセラーになりました。

 

人間なら誰もが負の感情と捉えてしまう「嘘」、

それをこの本で「奇跡の感動」へと変えてみてはいかかでしょう?^^

 

 

前作のおさらいがしたい方はこちらの記事をどうぞ

書籍「コーヒーが冷めないうちに」を読み終えての感想

 

この書籍のあらすじ

前回の話から7年が経った今回。

 

体がでかいマスターの「時田 流(ときた ながれ)♂」

流の従妹でウェイトレスの「時田 数(ときた かず)29歳♀」

流の娘で小学生1年生「時田 ミキ 6歳♀」

 

そして、いつも一番奥の席に座っているワンピースを着た女性。

 

その2人と1娘と1女性?が切り盛りする小さな喫茶店「フニクリフニクラ」。

 

その喫茶店には

『その席に座ると、その席に座っている間だけ、望んだ通りの時間に移動ができるという』

不思議な都市伝説があり、連日それを目当てにお客さんが訪れるとのこと。

 

しかしそこには

  1. 過去に戻っても、喫茶店を訪れたことのないものには会う事ができない
  2. 過去に戻ってどんな努力をしても、現実は変わらない
  3. 過去に戻れる席には先客がいて、その先客が席を立った時だけ座れる
  4. 過去に戻っても、席を立って移動する事はできない
  5. 過去に戻れるのは、コーヒーを注いでから冷めるまでの間だけ

さらには、過去に戻るための「特別なコーヒー」を注げるのは時田 数だけ(現在は)

という、なんとも細かい条件が勢ぞろい!

 

そんな中

  • 第1話『親友』 22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話
  • 第2話『親子』 母親の葬儀に出られなかった息子の話
  • 第3話『恋人』 結婚できなかった恋人に会いに行く男の話
  • 第4話『夫婦』 妻にプレゼントを渡せなかったろう刑事の話

と物語が進んでいきます。

 

書籍のタイトルでもある「嘘」。

これが今回の話のテーマなんですが、それぞれの話には必ず【死】が関係しています

死んだ人に会うという未知の体験とそこから生まれる心温まる奇跡のストーリーです。

 

こっからはがっつりネタバレするんで、
ネタバレ上等の人だけどうぞー( ´ω` )

 

 

 

 

では! どうぞどうぞ!

 

第1話『親友』22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話

第1話は

千葉剛太郎(ちば ごうたろう)♂」という定食屋を営む51歳の男性が、
「22年間、娘に嘘をついてきた」ということから物語が始まります。

 

剛太郎はもともと年商1億円にもなる会社を父親から引き継いでおり、結構裕福な生活をしていましたが、知り合いの会社が潰れたことにより、その連帯保証人として多額の借金を負うことに。

けっきょく借金返済のために自分の会社も倒産。

完全に無一文になってしまいます。

 

お金も友人も生きる希望すらも失っていた剛太郎に

「俺の店で働けばいい」と手を差し伸べてくれたのが、

大学ラグビー部でチームメイトだった「神谷 秀一(かみや しゅういち)」という男性。

 

剛太郎は、秀一が経営する定食屋で2ヶ月ほど修行していくうちに本来の明るさを取りもどし、その生活は順調に進んでいました。

そんなある日のこと、秀一の妻がひどい頭痛のため、夫妻はそろって病院へと急行。

剛太郎は当時1歳になった秀一の娘を預かり店に残ることに。

 

運が悪いことに、秀一夫妻はその途中交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまいます。

1歳にして身内が誰一人いなくなってしまった秀一の娘を、剛太郎は自分が育てていくと決心しました。

 

それから22年。

娘が結婚することになります。

 

当然、婚姻届を出すときに戸籍票が必要になってきますよね?

 

その時にバレるのです。

娘は両親がいない天涯孤独の身だったということが。
今まで育ててきてくれた男はまったくの他人だったことが。
22年間つき続けた嘘が……。

そのことに強い罪悪感をもった剛太郎は、
娘の結婚式には「本当の父親」が出るべきだと判断したのです

 

「過去に戻れる不思議な喫茶店」の話を秀一から聞いていた剛太郎は、
フニクリフニクラを訪ね、無事22年前の「ボロボロだった自分を見つけてくれた時」の過去に戻り、秀一と接触します。

過去に戻った51歳の剛太郎を見て秀一はかなり困惑しますが、
それでも、剛太郎を「未来から来た」と判断し、22年前にボロボロだった剛太郎が完全に立ち直ったことを理解し喜びます。

 

 

秀一が「なんで来たのか?」と聞くと、

剛太郎はすこしためらいながら秀一の娘が結婚することを話します。

 

「秀一が死ぬこと」を本人に悟らせないために、

『(本当はいない)未来の秀一が考えたサプライズとして、
過去の秀一からお祝いのビデオメッセージを残すために来た』と説明。

 

しかしそこにあった剛太郎の想いは、

「俺なんかが大事な結婚式に出席する資格はない」

という罪悪感でした。

 

今回のサプライズ動画を撮ろうと思ったのも、

「娘に本当の父親を教えるため」なのと、「今までの自分の罪の清算」のため。

 

なによりも許せなかったのは、

「秀一の娘が、自分の本当の娘だったら、と…」考えてしまったこと。

 

これまで娘と暮らしてきて確かな幸せを感じるようになった。

その幸せを失いたくないから、娘には本当のことを言わずに黙っていたんだという罪深い意識。

そのことが秀一の存在を否定しているようで自分をとても嫌悪したと。

 

その苦しみを表に出さないように秀一にビデオメッセージを頼んだのですが、

「剛太郎が未来からわざわざ来たこと」などから秀一は理解してしまいます。

 

自分が未来で娘の結婚式に出れないことを。

すなわち…「自分が死んでいる」 ことを。

 

それを理解し、納得した上で秀一はカメラを取ってこう言います。

『娘、提案がある。お前の父親は、俺と剛太郎の2人でいいよな?

 

そして剛太郎に向かって

『お前は、幸せになっていいんだ!』

『もう、俺を気にして苦しまなくていい…』

迷いのないよく通る声で、そう言ってくれたのです。

 

 

その後、過去から戻った剛太郎。

その手に握られたカメラの画面には、「笑え、笑え」と豪快に笑っている男と、
泣きながら必死に笑みを浮かべている男が映っていました。

 

第2話『親子』母親の葬儀に出られなかった息子の話

喫茶店フニクリフニクラには、数人ほど常連の客がいます。

三田絹代(みた きぬよ)♀」もその内の一人。

 

ウェイトレスの「時田 数(ときた かず)」が、
小学生に上がる20年以上も前から喫茶店に通っており、
また、数( かず)が通っていた絵画教室の先生としても親交がありました。

物語が始まる半年前ほど前から、絹代さんはガンの発覚により病院で闘病生活を送ることに。

 

入院してからは、
絹代さんの娘の「京子(きょうこ)」さんとその息子に病院までコーヒーを頼むほど、喫茶店のコーヒーを気に入っていました。

 

しかしながら闘病生活もほどなく、半年の入院の末に絹代さんはこの世を去ってしまいます。

 

この話の「嘘」とは、絹代さんのお願いにより、

「息子である「幸雄(ゆきお)」には入院のことを黙っていたこと」です。

 

絹代さんの息子の幸雄は、高校の修学旅行中に陶芸と出会い、
「一生を費やすに価する仕事を見つけたい」と言って、
高校を卒業後に父親の反対を押し切って単身京都へ修行に行きます。

 

絹代さんは、自分の病名を知らされた瞬間でも
17年前に実家を去った幸雄が今もなお、陶芸家を目指して頑張っていると信じていました

 

だからこそ、大切な息子に変な心配をかけまいと、入院したことを黙っていたのです。

 

幸雄にはそのまま入院の詳細については知らされず、
ある日突然母が死んだことだけが告げられます。

その後におこなわれた母絹代の葬儀に、幸雄は現れませんでした。

 

「弟の幸雄には母の入院のことを黙っていた」

姉の京子は、それに対して幸雄が怒っているのだと思っていました。
だから母の葬儀に幸雄が来なかったのだと…

 

……実は、幸雄は葬儀に「出なかった」のではなく、「出られなかった」のです。

 

17年間ひたすら真面目に陶芸に打ち込んでいた幸雄もすでに30代後半。
自分の窯を持ち、早く陶芸家として活躍する姿を母の絹代に見せたいと頑張っていました。

 

そんな時に提案された「窯を開くための融資」。

自分の師匠の窯に出入りする卸業者からの提案で、
30代後半というあせりもあったので
なけなしの貯金と消費者金融からお金を借りて業者へと頼みにいきました。

 

けれど、融資を持ちかけた業者はお金をもって逃亡。

幸雄は多額の借金を負っていたのです。

葬儀に行ける旅費すら工面できなかったんですね。

 

借金ができてからは毎日返済のことしか考えられず、
どうやって工面するかそればっかりで、
将来のことなど全く考えられない日々。

「いっそ死ねたら」と思うことも少なくはありませんでした。

 

それでも生きることを諦めなかったのは
自分が死んだら親の絹代の元に借金の取り立てが行ってしまうから。

それだけはなんとしてでも避けたいと、必死に自殺を思いとどまっていたのです。

 

 

そんな時に母の死を聞かされた幸雄。
緊張の糸だってぶっつり切れます。

 

絹代の葬儀から1ヶ月後、閉店時間を過ぎた喫茶店に幸雄は訪れます。

 

細かい話はせず、ただ過去に戻って死んだ母に会いたいことを伝えると、
数(かず)も深くは聞かずに了承。

過去に戻るためのコーヒーを注ぐまえに、幸雄のカップにそっとマドラーを入れます。

『絹代先生によろしくお伝えください…コーヒーが冷めないうちに。 』
とつぶやいて。

 

過去に戻った幸雄は、
入院直前のやせ細った母絹代に「たまたま帰ってきた」と偶然を装って出会います。

そして陶芸家として成功しているから心配しなくて良いという嘘をつくのです。

 

この話のもう一つの嘘は、
「幸雄が未来から来たことを黙り、陶芸家としてすでに成功し、幸せに生きている」という嘘。

 

母に心配をかけることなく、幸雄はそのまま「過去の世界で」死ぬことを選択。

コーヒーが冷めきるまでずっと母と話して過ごすと決めていました。

 

いよいよコーヒーが冷めきるころ。

……その一歩手前で、マドラーから「ピピピ」という音が鳴ります。

 

絹代さんは昔からの喫茶店の常連です。
過去に戻れるという不思議な現象もルールも全て知っています。

だから理解できました。

 

そして幸雄に語ります。

「ワンピースを着た女性は、死んだ旦那に会いに行って戻ってこれなくなった女性」
「過去に戻れるコーヒーを入れたのは、当時7 歳になったばかりの数(かず)」
「戻ってこなかったのは、数の「お母さん」だった」

『だから、数ちゃんは、死んだ人間に会いに行く人のカップには、コレ(マドラー)を入れるの』

 

絹代は、マドラーの存在で自分が死ぬことが分かってしまったんです。

 

マドラーが入れられていた理由を知った幸雄は

『赤の他人がなんでこんなことを!?死ぬことを知った母さんの気持ちはどうなる!?』

と激怒します。

 

しかし、絹代さんはこのマドラーが
「息子を死から救う母親としての最後の仕事」というメッセージだということも理解します。

『戻るのよ。未来に…』
『自分の子供が死にたがっているのを、救ってやれない親ほど、苦しいものはないわ』

と絹代は幸雄に優しく微笑んで語りかけるのです。

 

幸雄は、自分が死ねば全てが終わる。

自分の死なんて、死んだ絹代には関係ないことだと、そう思っていましたが
それが間違いだと気づきます。

「死んでも母親であることに変わりはない。

母が自分を大切に想ってくれることは変わらない。」

自分がこのまま死ねば、
死んだ母親さえも悲しませるところだったと深く反省します。

 

最後まで自分の幸せを願ってやまなかった母のために、

何があっても生きようと…

そう心に決めて、幸雄は現代に戻るのです。

 

生きることを決めた幸雄が見た店内は、過去に戻る前よりも光り輝いて見えたそうです。

(世界は変わらない。変わったのは…自分。)

そう頭で反芻しながら、これからの人生を生きていくことを決めて。

 

第3話『恋人』結婚できなかった恋人に会いに行く男の話

この話は「過去から来た男性」である「倉田 克樹(くらた かつき)♂」が、
結婚の約束をしている恋人を待っているところから始まります。

 

クリスマスなのにも関わらず、
半袖・短パン・ビーチサンダルと、かなり季節にケンカを売ってる服装で、
マスターの娘のミキから渡された、クリスマスツリーに飾る「短冊」に願い事を書いていました。

 

クリスマスに半袖の男が短冊を書く。

かなりカオスです。

 

ことの発端は、恋人と2年の交際が過ぎた夏の日のこと。

倉田自身が急性骨髄性白血病(きゅうせうこつずいせいはっけつびょう)と診断され、
余命は半年だと宣告を受けたために起こったことです。

 

会社の上司であり、
一度過去に戻るという体験をしている「加賀田 二美子(かがた ふみこ)♀」。
(旧姓 清川 二美子。 前作の1話のメインパーソン)

彼女から、過去にも未来にも行ける喫茶店があることを聞いていた倉田は、
ある条件をつけて「未来で恋人と会うこと」の計画を立てます。

 

恋人の名前は「森 麻美(もり あさみ)♀」。
倉田の2歳年下で会社の同僚です。

もともと麻美には彼氏がいましたが、
彼氏と別れた後に、その彼氏との間にできた子供を流産してしまったことを
倉田に話したことで2人の距離が縮まります。

 

体質的に流産しやすかった麻美は、
自分が原因で赤ちゃんを殺してしまったと思い詰めていました。

 

その時に「何か悩んでる?」と声をかけてくれたのが倉田。

女性のデリケートな問題だったけど、
誰でもいいから聞いて欲しいと思っていた麻美は倉田に流産のことを打ち明けます。

 

話を聞いた倉田。赤ちゃんが約70日間ほどお腹の中にいたことを確認すると

『その70日間、お腹の子は一体何をするためにこの世に命を授かったんだろうね?』

と問いかけます。

 

「その赤ちゃん、かわいそうだね。意味がない人生で」
とも聞こえてしまうこの問いかけに、麻美も当然ブチ切れます。

全然関係のないヤツが好き勝手言ってんじゃねぇ!と食ってかかる訳です。

 

しかし倉田の本意は違うところにあり、続けざまに

『違うよ。

その子はね、70日という命を使って、麻美ちゃんを幸せにしようとしたんだよ』

と答えます。

 

『もし、このまま、君が不幸になったら、その子は70日という命を使って君を不幸にしたことになる』

同情ではなく、麻美に起こった不幸な出来事をどう受け止めるべきかを具体的に指し示して。

 

『でも、君がこれから幸せになれば、
その子は君を幸せにするために70日という命を使ったことになるんだ。

 

そのとき、その命には意味が生まれる。

その子が命を授かった意味を作るのは君なんだよ。

 

だから、君は絶対に幸せにならないといけないんだ。

 

それを1番望んでいるのは、その子なんだよ……』

 

麻美のこれまで抱えていた罪悪感を一瞬で消し去る言葉でした。
そしてこれが2人が付き合うきっかけになったわけです。

 

しかし現実は残酷で、付き合って2年目で倉田は死を宣告されます。
手術をすることもできますが、多分自分は助からないと察していました。

 

だから、

「自分が死んでいない場合は会わない」
「自分が死んだ後に麻美が結婚して幸せになっている場合は会わない」

この2つの条件を付けて、彼女に会いに行こうと考えたんです。

 

それから2年後のクリスマスの日。

コーヒーが冷める寸前になったので帰ろうとしてコーヒーカップに手をつけた時、
突如麻美が喫茶店に飛び込んで来ます。

 

そして開口一番

『何考えてんの⁉︎
死んだ人間に合わなきゃならないこっちの身にもなってよね?』

と早口で吐き捨てます。

 

……(´・ω・`)(倉田の気持ち)

 

そして左手の薬指にはめられた指輪を見せて、

『私、ちゃんと、結婚してるから』

と言いはなちます。

 

その言葉を聞き、指輪を見た倉田は目を赤くし、
嬉しそうに苦笑いしながら「じゃ……」と言って過去に戻るのです。

 

 

……………実は、

前から「クリスマスの日に倉田が喫茶店に来ること」を
上司の二美子から知らされていた麻美は会社を無断欠勤していました。

喫茶店の入り口で待っていた二美子が「会わないつもりなのかも」と考えていた時、
息を切らせながら麻美が走ってやってきます。

『先輩の指輪を貸してもらえますか?』

と決意を決めて喫茶店に入り、
過去からやってきた「半年前に死んだ倉田」と相対するのです。

 

そうです。

麻美は結婚なんてしていませんでした。

「本当は倉田のことが忘れられなかった。倉田以外の人と結婚なんて無理だと思った。」
とさえ語っています。

 

ただ、流産した時に倉田に言われたことを思い出したんです。

 

『君がこれから幸せになれば、
その子は君を幸せにするために70日という命を使ったことになるんだ。

そのとき、その命には意味が生まれる。

その子が命を授かった意味を作るのは君なんだよ。

だから、君は絶対に幸せにならないといけないんだ。

それを1番望んでいるのは、その子なんだよ……』

 

だから、結婚できないかもしれないけど、絶対に幸せにならなきゃだめなんだ。

『私の幸せが、彼の幸せになるから…』

そう決意したからこそ、麻美は倉田に嘘をついたんですね。

 

そして麻美の「結婚してる」という言葉が嘘だと気づきつつ
彼女の心が変わったことを理解した倉田も、
「彼女は幸せになる」と判断して、喜んで帰っていったんでしょう。

 

倉田が去った後、麻美が立ち尽くす静かな喫茶店で、ミキは不意に短冊を読み上げます。

「いつまでも、あさみがしあわせでありますように」

 

第4話『夫婦』妻にプレゼントを渡せなかった老刑事の話

この話はフニクリフニクラのウェイトレス、
時田 数がなにかに悩んでいるシーンから始まります。

 

そこにヨレヨレのハンチング帽をかぶって入ってきた
定年退職を迎えて老刑事である「万田 清(まんだ きよし)」♂が

「急な仕事が入り、妻に誕生日プレゼントを渡しそびれたから、過去に戻りたい」

とお願いしてきます。

 

過去に戻らなくても渡せるんじゃ?とマスターの流は質問しますが、
清の奥さんは30年ほど前にある事件に巻き込まれてこの世を去っていたのです。

 

1年ほど前、入院する前の三田絹代と息子の幸雄が話している最中、
泣いている幸雄がいきなり湯気に包まれ消えたところを清は偶然目撃していました。

第2話の幸雄が未来から絹代に会いに来た時の出来事ですね。

このことから、フニクリフニクラが過去に戻れる喫茶店だということを知ります。

既に何人もの人が過去に戻っていることも。

 

しかし、どうしても理解できないことがありました。

(過去に戻ってもどんな努力をしても現実を変えることができないのになぜ過去に行くのか?)

 

そのことに興味を持った清は、過去に戻った人たちを調べます。

前作の第3話のメインパーソンであり、
交通事故で亡くなった妹に会いに行った「平井 八絵子(ひらい やえこ)♀」

清は八絵子に

『なぜ現実は変わらないと聞かされていたのに、亡くなった妹に会いにいくことができたのか?』

と直接話を聞きにいったそうです。

 

八絵子はそれに

『もし、妹の死がきっかけで私が不幸になったら、
妹は私を不幸にするために死んだことになるでしょ?

だから、私は不幸になんかならない。

絶対、幸せになってみせる。そう誓ったの。

私の幸せは、妹の生きていた証だから…』

と答えたのです。

 

それまで清は、
妻が死んだのに、自分だけが幸せになるわけにはいかないと思っていた。

けれど、八絵子の言葉を聞いて自分が間違っていたことに気づかされたのだと。

 

後悔しても、死んだ人間は帰ってこない。

だったらせめて、生きている妻に、プレゼントを渡したい。

 

清は改めて、30年前の妻の誕生日に戻らせてもらいたいとお願いします。

……そこで渋る喫茶店の面々。

 

清が「?」と首を傾げていると、

「ある事情があって、数の淹れたコーヒーでは過去に戻ることができなくなった

と、告げられます。

 

当然清はがっかりしますよね。

呆然とし、「…残念ですが、仕方ありませんね」と過去に戻ることを諦めかけます。

 

その時に、流が店の奥から、
桜色のワンピースにワインレッドの胸当てエプロンをつけた女の子を連れてくるのです。

それは、先週7歳の誕生日を迎えた娘のミキ。

時田家の女は7歳になったら、過去に戻れるコーヒーをいれられるようになるのです。

 

そのことにビックリしつつも、
過去に戻れることを喜んだ清はミキにコーヒーを入れてもらうことに。

初めてのコーヒー入れにわちゃわちゃしつつも、清は無事に過去に戻ることができます。

 

その際にふと清は思うのです。

「あれ? 妻の「公子(きみこ)」はこの喫茶店が過去に戻れることを知らねぇや……
30歳も歳とった俺が、どうやってプレゼント渡そう?」と。

 

妻の公子とは高校の時からの知り合いで、一緒に警察官を目指していました。

2人が結婚した2年目に、
清は交番勤務の仕事から晴れて警視庁刑事部捜査一課に配属されます。

 

当時女性警察官の採用枠が少なく、なかなか警察官になれなかった公子は
清が刑事として活躍する日を心から嬉しがりました。

そんな彼女とは反対に、もともと温厚な性格だった清は、
捜査一課で扱う殺人事件や殺傷事件のような「人間の負の部分に向き合い続ける仕事」に正直心が折れそうでした。

その状況に危機感を持った清は、
刑事を辞めたいことを公子に打ち明けようと思い、
自宅では言いづらいので、公子の誕生日を口実にフニクリフニクラに呼び出したのです。

 

けれど、待ち合わせ当日に仕事が入ってしまい、
刑事を辞めるということを打ち明けにくかった清は、
「また今度でいっか」と喫茶店に行くことはしませんでした。

 

当時は携帯電話やポケベルをみんなが持っている時代ではなかったので、
当然清が喫茶店に来ないことを公子は知りません。

公子は閉店時間まで清を待っていました。

閉店後に喫茶店を出て駅に向かっている途中、強盗犯に運悪く遭遇した公子は
相手が持っていたカッターが頚動脈に直撃し、命を落としてしまいます。

 

その事件は清の心に大きなトラウマとなって残ります。

(約束さえ守っていれば、公子は死なずに済んだんじゃないか)

それ以来、この喫茶店の前を通るだけで、
動悸が激しくなるようにさえなってしまったほどです。

 

そんな清が、この喫茶店で過去に戻った人たちから話を聞いて、
そのトラウマをも乗り越えようとしていました。

 

そうこうしているうちに30年前の喫茶店に無事にタイムスリップ。

そして目の前に現れたのはなんとも頼りない男性。

 

「ほ、本当に人が現れた。……要(かなめ)さん」
と言ってバタバタと奥の部屋へ姿を消していきます。

 

その瞬間、清は過去に来たことを確信します。

「要」という人物が、数の母親だと絹代から聞いていたからです。

 

そして現れる「白襟の花柄のワンピースに小豆色の胸当てエプロン」をつけた、
お腹が大きな女性。

数を身ごもった要です。

いつも喫茶店の一番奥の席に座っていたワンピースを着た女性と同じ人です。

 

最初に出会った頼りない男性は、要の旦那。
これまで、未来から誰かが来たことを見たことがなかったのでビックリしたとのこと。

というのも、
今の要のいれたコーヒーでは過去には戻れないらしいのです。

 

お腹に手を当てて、嬉しそうに微笑んで言いました。

『お腹の子が女の子場合、妊娠すると同時に、この力はお腹の子に引き継がれちゃうんです』

 

このことに清は納得し、ある一つの違和感を覚えるのです。

(数さんは妊娠している。それなのに……少しも嬉しそうには見えなかった)
(もしかして…)

そのような考えがよぎった瞬間、
清の待ち人である公子が喫茶店にやってきます。

一瞬パニックになったけれど、なんとか持ち直して公子に
「万田 清という方からプレゼントを預かった」と伝え、プレゼントを渡します。

 

『誕生日、おめでとう…』

そう言った瞬間、公子は大粒の涙を流します。

これまで公子の涙を見たことがなかった清はめちゃくちゃ動揺し、
「ど、どうされましたか?」と聞くと、公子は

「実は今日、主人から別れ話を切り出されるのだと思っていた」と答えたのです。

 

清。耳を疑います。

そんなこと一度として思ったことがないから。

 

話を聞けば、主人である清が、毎日険しい顔ばかりしている。

会話らしい会話もほとんどない。

家を開けることも多いし、口数も少ない。

今日喫茶店に呼び出されたのは、別れたいと言われるものだと…

 

今の刑事という職業に思い悩んでいた清は、
公子の言うことに思い当たる節がありました。

自分が刑事を辞めるかどうか、
うじうじと悩んでいる行動が公子を不安にさせていたのだと。

 

公子がこんな不安な気持ちを抱えたまま亡くなるなるなんて、
清には耐えられませんでした。

だから、全くの赤の他人のふりをしているにもかかわらず、

『わたしは、キミと結婚してから、別れたいなんて一度も思ったことはありません』

と言ってしまうのです。

 

たとえ信じてもらえなくても、公子を苦しめている原因を取り除いてやりたい一心で。

そして打ち明けます。

30年前後の未来から来たこと。
刑事を辞めたいということ。
…公子とはずっと別れなかったこと。

最後のは、清のついた、精一杯の嘘。

 

 

伝えるべきことを伝え、もう戻ろうとコーヒーに手をかけると、

『やっぱり…清くんだったのね…?』

と、公子が気付くのです。

 

理由はヨレヨレになったハンチング帽。

清が刑事になったときに、
公子がオーダーメイドで作ってプレゼントしたものでした。

清はそれ以来当たり前のように使っていたので、
外すことをすっかり忘れていたんですね。

 

その後清は、

「その後も幸せだった」と公子に告げて

コーヒーを飲み干します。

 

公子もプレゼントを胸元に当て

「…ありがと」と幸せそうに笑うのでした。

 

 

過去に戻った清は、喫茶店の皆に
要と会った時のことを語って物語が終わるのです。

 

個人的な感想

この本で感じたことは、

「起きた出来事にどんな意味を持たせるのか?」

それを考えることの大切さ。

 

そして、それ以上に

 「起きた出来事にどんな意味を持たせたいのか?

 「そのために自分はどうなるべきなのか

というとてもポジティブな使命感をもつこと
自分や自分の大切なものの将来をよくする秘訣なんだと思いました。

 

第3話で、流産した麻美に向けて倉田が遺した言葉が非常に本質を捉えていると思います。

 

『君がこれから幸せになれば、
その子は君を幸せにするために70日という命を使ったことになるんだ。

そのとき、その命には意味が生まれる。

その子が命を授かった意味を作るのは君なんだよ。

だから、君は絶対に幸せにならないといけないんだ。

それを1番望んでいるのは、その子なんだよ……』

 

起きた出来事に対して、

 その出来事にどんな意味をもたせたいの?

 その意味を作っていくのは自分なんだから、前向いて頑張って行こうぜ!

そんな希望に満ちたメッセージが僕には感じられました♪

 

 

この本には各4話に渡って、
それぞれの人たちの心温まるエピソードが書かれていますが、

本の全体を通して、

時田 数が、非常に悩み苦しみながら「幸せ」と向き合う話が書かれています。

  • 母を失った「不幸」
  • その原因を作った自分の「罪」
  • 拭えない「罪悪感」

前作から続くそれらの悩みを、
どのように乗り越えて「幸せ」を手に入れようと心変わりするのか?

 

それは是非本を手にとって

ご自身で確認してください♪

それではこれにて( ´ω` )